障害者の就労継続支援事業所については、就労能力の向上に寄与しない事業を行っている事業者の参入が指摘されていることから、2025(令和7)年11月に、新規指定・運営状況の把握・指導のためのガイドラインが国から示されています。内容をみながら、適切な事業運営について考えます。
急伸した、障害福祉サービス等の総額
近年の障害福祉サービス等の総額は、障害者自立支援法の施行時から4倍以上に増加し、とくに2023(令和5)年度から2024(令和6)年度にかけて12.1%の急伸がみられている。さらに、1人当たり費用額(月額)は、2024(令和6)年度改定の改定率(+1.12%)を大きく上回り、6.0%の伸びとなっている(図1)。これをサービス類型別にみると、就労継続支援B型が20.1%と、最も大きい伸び率となっている(図2)。
こうした状況を踏まえ、なかでも就労移行支援体制加算については、同一の利用者についてA型事業所と一般企業の間で複数回離転職を繰り返し、その都度加算を取得するという、本来の制度趣旨に沿わない形で算定する事業者があったこと等から、1事業所で年間に算定可能な就職者数に上限(当該事業所の定員数まで)が設けられている(2026(令和8)年4月1日施行)。
また、就労継続支援B型については、平均工賃月額の算定方式の見直しにより、見直しの意図と異なる形で高い報酬区分の事業者が増えたことに対応し、基本報酬区分の見直しが行われている(2026(令和8)年6月1日施行)。
ちなみに、就労移行支援体制加算に関する直近の不正受給事案としては、
・(株)絆ホールディングス(大阪市)傘下の4事業所が約110億円の返還を求められ(2026(令和8)年3月)、同年5月に事業者指定取り消しの行政処分を受ける(同年6月に会社更生法の適用を申請)
・就労継続支援A型事業所テイラーズ・ギルド(大阪府八尾市)が約2億4000万円の返還を求められ(2026(令和8)年5月)、同年6月末での事業者指定取り消しの行政処分を受ける
等の事例がある。
自治体の指定・指導事務の実態
前述のような不正受給事案が発生する背景には、自治体における指定・指導事務の担当部署の人員配置が少ないこともある。「自治体における就労継続支援事業所の要件確認等の実態に関する調査研究」(令和6年度障害者総合福祉推進事業)によると、都道府県・政令市では4〜6人、中核市では1〜3人の配置が多く、そのうち担当年数が3年以上の職員数はほとんどが1〜2人となっている。就労支援を専任的に担当する職員の配置は、都道府県・政令市は2〜3割程度であり、中核市にはほとんどいない状況となっている。
また、就労系サービスは、福祉に加えて生産活動や民間企業の決算書類に関する知識など、複雑かつ広範囲にわたる知識・経験が必要とされることから、制度理解や書類審査において難しさを感じる職員が多い結果となっている。
多くの自治体で専任者の必要性を感じる一方、さまざまな課題があり実現に至っていない。他方、
・新規指定申請の審査のために中小企業診断士・公認会計士等の専門家会議を設置し、事前協議に申し込みのあった事業所を全件審査
・指導担当部署に会計・企業決算等の専門的知識をもつ会計年度任用職員を配置し、A型に特化したチームを作り、指導等を実施
といった対応を行っている自治体もあり、専門家等が新規申請時に自治体職員をサポートする仕組みは効果を上げていることも判明している。
なお、新規指定申請をしてきた事業者の先々の運営に疑問が残る場合でも、それをもって直ちに指定申請自体を不受理にはできない等の課題があり、国には、自治体職員の事務の根拠や後ろ盾となる、就労支援事業に特化した指定・指導事務要領や通知、ツールの提供が求められていた。
そこで、前述の調査研究の結果と社会保障審議会障害者部会での議論を踏まえ、2025(令和7)年11月に「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドライン」が国から示されることとなった。
2025(令和7)年11月に示されたガイドラインの内容は
同ガイドラインの主な内容をみると、まず指定権者の役割として、指定希望者が障害者総合支援法をはじめ関係法令の規定、円滑な運営に必要不可欠な知識等を有しているか、利用者の就労の知識・能力を向上させる支援内容となっているか等について総合的に審査することが求められており、指定希望者に対して面談や確認を行う場合は、指定希望者が委託等をしているコンサルティング会社や代理者等ではなく、必ず指定希望者の法人の代表者、事業所の管理者やサービス管理責任者等に対して行うこととしている。
なお、「特段の知識等がなくとも事業所の運営は可能であり、高収益が実現できる」等の謳い文句により、安易な事業所の開設を他者に勧める等の不適切な行為を行っている者がいることを把握した場合には、「地域の関係機関同士で情報共有を行うとともに、厚生労働省およびほかの指定権者に対し情報提供を行うことが望ましい」としている。
事業計画書には、就労継続支援の事業計画に加え、事業の目的および事業所に求められる責務の理解、法人の理念、当該事業を選択した理由、支援員の人員体制や研修の計画、利用定員の根拠、地域の関係機関との連携についての記載のほか、指定特定相談支援事業所や就労支援機関、特別支援学校等の関係機関を通じて、開所する意向のある地域の支援ニーズや先行する就労継続支援事業所の状況を把握したものになっているかを確認することが求められている。
生産活動の適切性等も審査
生産活動の適切性についても、「生産活動と称して、eスポーツや、植物の水やりを1日数回行うだけの活動、卓球教室や麻雀教室での手伝いに相当するような活動、所定の場所に居ればよいというような活動等、公費による就労支援の生産活動として適さない可能性がある活動を行わせている不適切な事例が散見されている」と指摘し、審査の際には、
・具体的な生産活動の場面があるか
・当該生産活動により一般就労に必要な能力向上が見込まれるか
・それにより安定した生産活動収入を得ることができるか
・地域の中に当該生産活動により習得した能力が活かされる労働市場や求人があるか
・生産活動の収益が適当か(収入が支出とあっているか)
・業務委託費が妥当か(取引価格や単価が過大または過小に設定されていないか)
といった観点からの審査も求めている。
また、在宅支援の適切性についての確認も示している。就労継続支援では、適切なサービス提供を行うために、利用者の状態や訓練の進捗状況等を直接確認しながら、作業に伴う指導や相談等を随時行う必要があり、原則として対面での支援を行うことが求められる。例えば、重度障害者で通所が困難であることなどを理由に、オンラインによる在宅での就労を希望する者であって、在宅でのサービス利用による支援効果が認められると市区町村が判断した場合に在宅支援が認められている。
しかし、公費による就労支援の生産活動として適さない可能性がある活動や、就労に必要な知識及び能力の向上に寄与しない自習を行わせているなど、就労支援の実態が認められない不適切な事業運営が一部にみられる。このことから、提供される生産活動の内容や緊急時対応の具体的な実施方法(事業所の職員が速やかに利用者の元へ駆けつけ、緊急時の対応が実施できるか)等、在宅支援の要件を満たした運営が実施できる事業計画になっているかに加え、運営規程において、在宅での訓練内容及び支援内容が明記されているか確認し、留意事項通知及び「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A VOL.8」(令和7年3月31日)に照らして、適切な内容となっているか確認することを求めている。
そのほか、生産活動シート(図3)の活用も勧められている(※)。このシートは、事業所の生産活動内容、生産活動収支、利用者へ支払う賃金・工賃、就労継続支援事業所の経営状況等を把握するためのもので、指定希望者に、事業計画書等と併せて生産活動シートの作成・提出を求め、事業計画書等審査にて確認していくことを想定している。
運営指導については、おおむね3年に1回実施することとしている。ただし、就労継続支援A型は事業計画に沿って生産活動から最低賃金以上を支払うことができているか、就労継続支援B型については公費による就労支援の生産活動として適切な活動内容になっているか等、適切に運営されているかを確認する必要がある。そのため、新規指定からおおむね6月を目途に実施することが示されている。
今回のガイドラインは、他の障害福祉サービス等の指定・指導業務等に準用可能なものとなっている。
さらに現在、社会保障審議会障害者部会では「指定障害福祉サービス事業者等に対する集団指導・運営指導マニュアル(案)」、「指定障害福祉サービス事業者等に対する監査マニュアル(案)」が検討されており、これまで整理されていなかった運営指導の際に確認する事項の重点化、監査における処分基準の考え方が、今後提示される予定となっている。
※…「生産活動シート 記入方法と確認点(解説資料)」https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001600441.pdf
■ この記事は月刊誌「WAM」2026年8月号に掲載された記事を一部編集したものです。
月刊誌「WAM」最新号の購読をご希望の方は次のいずれかのリンクからお申込みください。