介護サービス提供体制の維持のため、人材確保が難しい中山間・人口減少地域向けに、新たな類型の特例介護サービスを創設することが、令和8年6月19日に成立した「社会福祉法等の一部を改正する法律」に盛り込まれています。同サービスでは、包括的な評価(報酬)の導入や配置基準の緩和等の措置が講じられます。具体的な内容の検討状況をみていきます。
特例介護サービスは令和9年4月1日施行
我が国の2040年の人口構成は、85歳以上人口を中心とした高齢化と生産年齢人口の減少が予測されている。地域ごとにみても、ほぼすべての地域で生産年齢人口が減少し、都市部では高齢人口が増加、過疎地域では減少する(図1)。これを市区町村別にみると、558市町村(全市区町村の約3割/2015年人口に対する2050年人口の変化率)が人口半数未満となり、そのうち21市町村が25%未満となる。とくに、人口が半減する市町村は中山間地域等に多くみられる。
各保険者における、2050年までの介護サービス利用者数の推計では、ピークを過ぎ減少に転じる保険者もある一方、都市部を中心に2040年以降まで増え続ける保険者が多くなっている。また、2050年までの間に最も利用者数が多くなる年の利用者数の、2022年の利用者数との比(増加率)をみると、+20%未満の保険者(約44%)が多い一方で、+60%以上となる保険者(約13%)も存在している。
介護サービス需要の変化をサービスごとにみると、保険者によって利用者数が最大となる年はさまざまであるが、在宅サービスについては、すでに2024年までに313(19.9%)の保険者がピークを迎え、2035年までに906(57.6%)の保険者がピークを迎えると見込まれている(図2)。
施設サービスについては、すでに2024年までに256(16.3%)の保険者がピークを迎え、2035年までに762(48.4%)の保険者がピークを迎えると見込まれている(図3)。
このような地域ごとの実情に対応するため、「社会福祉法等の一部を改正する法律」(令和8年6月19日成立/以下、改正法)により、中山間・人口減少地域における柔軟な対応として「特例介護サービス」(令和9年4月1日施行)が創設される。
これは、高齢者人口の減少だけでなく、生産年齢人口の減少により介護人材の確保の困難が進んでいる中山間・人口減少地域に、必要なサービスを維持することを目的としている。
創設される特例介護サービスは、�@特定地域サービス(介護(予防)給付)、�A特定地域居宅サービス等事業(地域支援事業)に分かれている(図4)。
�@の特定地域サービスは、包括的な評価(月当たり定額報酬)の導入、人員配置基準の弾力化(管理職・専門職、夜勤職員の要件の緩和等)を行うもので、障害福祉分野においても同様の見直しが行われる。なお、人員配置基準の弾力化については、「職員の負担や質の確保への配慮が前提」としている。
�Aの特定地域居宅サービス等事業は、市町村が、給付に代えて、介護保険財源を活用して事業費で委託するものである。
令和9年4月1日の施行に向けて、今後、特定地域(中山間・人口減少地域)の基準、�Aの特定地域居宅サービス等事業については社会保障審議会介護保険部会(以下、介護保険部会)において、�@の特定地域サービスについては同審議会介護給付費分科会において議論が行われる。また、介護事業者の連携強化(地域において中心的な役割を果たす法人・事業所がサービス提供を維持・継続するための仕組み、インセンティブ)については、介護保険部会等で議論を行う。既存施設の有効活用、調整交付金のあり方については、介護保険部会意見書を踏まえ、法令・通知改正等の必要な対応が行われる。なお、検討事項や議論の場については、今後の議論状況等に応じて変更される場合がある。
特定地域の基準は?
ところで、特定地域(中山間・人口減少地域)はどのような基準になるのだろうか。現在、介護サービスの確保が著しく困難な地域を対象とした加算・サービス類型として、特別地域加算(+15%)や離島等相当サービスが設けられており、対象地域は各個別法で指定されている。深刻な人口減少・高齢化等の課題を抱える地域(離島振興対策実施地域、奄美群島、振興山村、小笠原諸島、沖縄の離島)に加え(市町村の全域指定もしくは一部指定)、人口密度が希薄であること、交通が不便であること等の理由によりサービスの確保が著しく困難であると認められる地域であって、自治体から対象地域への追加意見(手上げ)があった地域を指定している(市町村の全域指定もしくは一部指定/表1)。
介護保険部会では、これらの地域はいずれも対象とすることが提示されている。さらに、下記「考えられる指標」のア〜ウの組み合わせにより、特別地域加算・離島等相当サービスの対象地域と同様の現状にある地域が含まれるような市町村単位の基準を設定し、当該基準を満たす市町村(全域単位)の指定を可能とすることが示されている。
考えられる指標
ア. 75歳以上人口密度(x人/km2未満)
:特に委託サービスにおける介護サービス提供の困難さに着目した基準設定
※特別地域加算・離島等相当サービスの対象地域に係る規定において、指定サービス等の確保が著しく困難である理由の例示として「人口密度が希薄であること」を規定している。
イ. 75歳以上人口(y人未満)
:地域の規模、介護サービスの需要に着目した基準設定
ウ. 75歳以上人口変化率(z%未満)
:介護サービスの需要の減少に着目した基準設定
このほか、市町村内の一部地域が前述の指標に該当する場合や、特定のサービス類型の事業所が地域に存在しない、事業所が僅少かつ当該事業所が廃止を検討しているなど、現に指定サービス等を前提としたサービス基盤の維持が困難である地域(市町村の全域もしくは一部地域)を指定することも可能とすることが示されている。なお、一部地域の範囲(エリア設定)は、旧市町村単位、行政区単位、日常生活圏域単位が想定されている。
さらに、前述の「考えられる指標」については、�@「75歳以上人口密度=5人/km未満」とする考え方、�A「75歳以上人口=1000人未満かつ減少」とする考え方が示されている。
配置基準の弾力化について
特例介護サービスの人員配置基準については、職員の負担への配慮の観点から、職員の賃金の改善に向けた取り組み、ICT機器の活用、サービス・事業者間での連携を前提に、管理職や専門職の常勤・専従要件、夜勤要件の緩和を行うことが、介護保険制度の見直しに関する意見(令和7年12月25日社会保障審議会介護保険部会)で示されている。
配置基準の具体的な内容は今後の議論で決められることとなるが、類似するサービスとしてすでに行われている基準該当・離島等相当サービスの実際の運用状況(表2)をみると、一定の見込みが立つだろう。
包括的な評価について
中山間・人口減少地域においては、利用者の事情による突然のキャンセルや利用者宅間の移動に係る負担が大きく、また季節による繁閑等により、年間を通じた安定的な経営が難しく、サービス基盤の維持が課題となっている。このため、特例介護サービスでは、例えば訪問介護で、現行の「サービス提供回数に応じた出来高報酬」から「包括的な評価(月単位の定額払い)」とすることが示されている。
包括的な評価の仕組みの検討に向けては、令和8年度介護事業経営実態調査(調査時期:令和8年5〜7月)のほか、離島・中山間地域・豪雪地帯等における各種加算等の在り方の調査研究事業(同令和8年7〜9月)、中山間・人口減少地域における訪問介護サービスの包括的な評価のあり方に関する調査研究事業(同令和8年8〜9月)が行われ、その結果が勘案される。移動コストへの対応を含め、事業所の経営の予見性を高められるような報酬設計が求められる。
■ この記事は月刊誌「WAM」2026年9月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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