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介護技術の基本

家庭で介護を行っている方から、「(介護を受ける方に)動いてもらう、または動かすのに一苦労」という声をよく耳にします。特に、体の大きな方を無理に動かそうとすると、自分の体に負担がかかるばかりか、介護を受ける方にも余計な負担を強いることになります。
そうならないためにも、体のメカニズムを理解し、正しい介護技術を身につけたいものです。そこで、本連載では、人の体の動きに合わせた介護技術の基本を紹介します。ぜひ、介護を行う際に参考にしてみて下さい。

第1回 重力と姿勢

人の進化の過程

人は進化の過程で、直立2足歩行という能力を獲得しました。これは、地球環境に適応し、他の生物との生存競争に打ち勝つためと考えられています。直立2足歩行が可能になることで手が自由になり、道具の使用や手作業が可能になり、結果として脳が進化し、知能を手に入れたのです。
この能力を獲得するために、人は重力という大きな課題と戦ってきました。したがって、私たちの姿勢や動きを考える際には、重力がどのように体に影響しているのかを考えることが大切になります。
私たちの生活には「歩く、立つ、座る、寝る」などさまざまな動作が必要です。これらを可能にするためには、筋力や反射、反応など、重力に負けない体の仕組みが必要となってきます。


3つのキーワード

姿勢や動きを理解するために、まずは次の3つの用語を覚えてください。

(1)重心
(2)支持基底面
(3)圧中心点

(1)重心とは、物体がつりあう場所、シーソーの支点の部分です。人の重心は、ちょうど骨盤の位置にあります。(2)支持基底面は、立っているときには、両足で囲まれた面です。杖をついている人は、杖と両足を囲んだ面となります。(3)圧中心点は、重心の真下の位置になります。立つ姿勢が保たれているのは、圧中心点が支持基底面の中にあるからです(図1)。
人から押されたりしてバランスを崩した場合を考えてみましょう。ゆっくり前から押されたときは、頭を前に倒したり両手を上に上げたりして、倒れないように努力します。頭や手の重みを前に持っていき、重心の落ちる位置、すなわち圧中心点が支持基底面から外れないようにしているのです(図2)。
さらに、押されてこらえきれなくなると、左右どちらかの足を1歩後ろに踏み出します。これは、支持基底面を後ろに広げ、倒れないようにしているのです(図3)。これでも支持基底面内に圧中心点を保てない場合には、転倒してしまいます。
今回は、立位を例にして解説しましたが、その他の姿勢においても重心、支持基底面、圧中心点を理解することにより、さまざまな場面における介護に役立てることができます。



執筆:野尻晋一(介護老人保健施設清雅苑 副施設長、理学療法士)、大久保智明(訪問リハビリテーションセンター清雅苑 主任、理学療法士)