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医療・介護の提供能力の余力評価を

ふまえた法人経営


 全6回に渡って、各地域の医療・介護の提供能力の余力評価をふまえた法人経営についてお届けします。


<執筆>
国際医療福祉大学大学院教授 高橋 泰 氏


第6回:介護余力の計算方法と大都市の介護の危機的状況

 連載の第1回目では日本の地域を大都市、地方都市、過疎地域に分ける方法を説明し、第2回は大都市圏内の、第3回は地方都市圏内の、第4回は過疎地域の、地域別の急性期医療・施設介護提供余力の水準を示した。また5回目では、急性期医療の余力の計算方法を説明した。最終回である今回は、介護余力の計算方法を説明し、この手法により見えてくる大都市の介護の危機的状況について述べる。

介護余力の計算方法

 今回の連載で使用した「施設介護の余力」は、以下に説明する2015年と2040年の介護ベッド準備率を用いて算出した。まず「2015年介護ベッド準備率」とは、2015年の各地域の介護施設の余力を示す指標である。2015年の75歳1,000人に対して介護サービス付きのベッド数の全国平均は81床である。この値を基準に、各地域の75歳1,000人に対する介護ベッド数との差の比率を求めたものが、「2015年介護ベッド準備率」であり、以下に計算式を示す。例えば、75歳1,000人に対し特養、老健、および介護付きの有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅の介護保険上の特定施設になっているものなどの定員ベッド数が121.5床(=81床×1.5)という地域は”+50%“、逆に40・5床(=81床×0.5)という地域は”−50%“となる。
 「2040年介護ベッド準備率」は、各地域の75歳以上人口を2040年の将来推計人口に置き換えて算出したものであり、高齢者数の増加に対し、2015年全国平均水準の介護ベッド数との乖離を測定した。2040年に向けてどの程度の介護ベッドを準備しなければならないか、あるいは余裕があるのかを示す。



 なお、今回のデータは、都道府県が公表している介護サービス情報公表制度の情報から、サービス種類の施設数・定員を市町村ごとに集計することにより株式会社ケアレビューが作成したデータを使用した。

介護余力から見えてくる大都市の介護の危機的状況

 表は、大都市に所属する各二次医療圏の2015年と2040年の施設介護の余力を示している。縦軸は、「2015年の余力」を表し、上に位置するほど施設介護の余力が高く、下に位置するほど施設介護の余力が低い。介護余力が0%は、その二次医療圏に住む75歳以上高齢者1,000人に対し、介護付きベッドが全国平均の81床あることを意味し、+30%の場合は、全国平均81床と比べ、その地域には30%多い介護ベッドがあることを意味する。一方、横軸は、2040年の施設介護の余力を表し、右に位置するほど介護の余力が高く、左に位置するほど介護の余力が低い。−50%の場合は、2040年にその二次医療圏に住む後期高齢者1,000人に対して2015年の全国平均レベルの81床の介護ベッドを用意するには、2015年の介護ベッド数の50%をその地域で増やす必要があることを示している。



 また表の右上から左下に向かうグレーのエリアは、2015年と2040年の施設介護の余力レベルが変わらない二次医療圏であり、グレーエリアの左上は施設介護余力が悪化、右下は施設介護余力状況が改善することを意味する。まずすべての大都市に所属する二次医療圏はグレーエリアの左上に位置するので、介護施設の状況は厳しくなることが予想される。
 一番右上に位置する川口(埼玉)の2015年の「2015年介護ベッド準備率」は34%と 高く、2015年の介護余力評価は最高の1レベルであり、川口は、東京都心からの多くの介護を必要とする高齢者を受け入れている。しかし川口でも今後後期高齢者が急増し、2040年の川口の75歳以上の高齢者1,000人に2015年の全国平均レベルの81床のベッドを用意しようとすると、ちょうど2015年と同じ介護ベッド数が必要となることが予想される。今後川口の介護ベッドが増えない場合、これまで東京の介護を必要とする高齢者を受け入れる余力のあった川口が、東京からの高齢者を受け入れる余裕がない、あるいは川口の介護を必要とする人たちが、東京の介護難民により外へ押し出されることが予想される。横浜西部、さいたま市、川崎北部、横須賀、八王子、平塚、横浜北部、相模原などの「2015年介護ベッド準備率」の高い地域も、東京都心の介護余力の低い地域の介護を必要とする高齢者を多数受け入れている。しかしこの表は、これらの地域の施設介護余力が今後急速に細り、その地域の75歳以上の高齢者を受け入れるだけでも、現在より50%の施設を増やす必要が出てくることを示し、他の地域の高齢者を受け入れる余裕はなくなることを意味している。その結果、受け入れ先がなくなる東京都心を中心に、東京圏の介護状況がかなり危機的な状況にあることは間違いない。2015年の大阪が4レベル、名古屋が3レベル、2040年がともに5レベルであり、決して楽観できるレベルではないが、東京圏よりはまだましな状況にある。
 一方、地方の大都市である札幌、仙台、福岡は、2015年では3レベル(2015年平均レベル)で介護に大きな問題がないと思われるが、2040年の施設介護余力が6レベル(非常に不足)であり、2040年の後期高齢者に対して2015年のレベルの介護ベッドを提供するには、2015年のベッド数にさらに60%から100%レベルのベッドを用意する必要があると予想される。地方の大都市も、今後急激な高齢化が進み、その対応が首都圏と変わらないスピードを要することを、強調しておきたい。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成28年3月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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