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第4回:介護施設における「看取り」ケアの実現には


介護施設で増える「看取り」


 一昔前は、高齢者にとって最期を迎える場所は病院か在宅であったが、ここ数年、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)を中心とした介護施設での看取り件数が増えている。厚生労働省「第84回社会保障審議会介護給付費分科会資料1(H23・11・10)6頁」によれば、特別養護老人ホームにおける退所者のうち、そのまま約3割が施設内で死亡(看取られ)しており、病院等へ搬送され入院を経て死亡した割合が約3割と同程度となっている。
 現在、一人暮らし高齢者の増加と、家族介護が難しいといった社会的背景から在宅介護よりも介護施設で最期を迎えたいという高齢者も少なくない。その意味では、「人」の最期を迎える場所は、「病院」「在宅」「介護施設」と大きく3分類できるであろう。

看護師の知識と技術が重要


 従来、特別養護老人ホーム(特養)では、急変した入所者がいた場合、すぐに救急車を呼んで搬送といった対応が主流であった。
 しかし、介護施設で「看取り」までケアするには、このような急変においても救急車を呼ぶことなく、看護師が医師と連絡を取りながら(事前に本人や家族の意向も聞き)看取りへのケアを行っていく。なお、具体的には酸素吸入や点滴、気管内挿管や人工呼吸器の装着など、最期の意思のすりあわせを家族と行いながら、本人の希望に沿った最期を迎えられるようケアしていく。その意味では医療的な判断が一定程度、看護師に委ねられるため、それらの知識や技術が重要となる。

チームワークが不可欠


 しかし、入所者が最期を迎えるためには施設全体で十分な体制を整えなければならず、優秀な看護師だけでは対応が難しい。特養では、日々、入所者と接する時間が多いのは介護職員であり、施設全体で「看取り」ケアに心掛けていかなければならない。
 経験の浅い介護職員は、入所者の急変などを目の当たりにするとパニックに陥って冷静な対応ができなくなってしまう人も少なくない。看護師はそのような介護職員の不安を取り除くために、日頃から「看取り」とはどういうものかを理解してもらえるよう、施設全体で情報を共有していく必要がある。そして、チームワークを醸成し施設内で職種間に隔たりなく、入所者の「死」から目を背けずに向き合っていくコンセンサスが必要不可欠となる。
 もっとも、これまでの経過をみていくと、2009年介護報酬改定から本格的に介護施設等において「ターミナルケア」といった看取りに伴う「加算」が創設され、施設で入所者を看取ることで経済的な評価も得られるようになった。また、同じ時期に介護福祉士有資格者や一定の勤務年数者を雇用すると、介護事業者は上乗せして「加算」額を徴収できるようになり介護職員の専門性も重視されるようになった。

特養での医師の役割


 しかし、介護施設で常駐して勤務している医師は少ない(図1)。そのため、急変した場合、非常勤医師に連絡して対応してもらうことになる。
 そのため、非常勤医師のなかには、24時間対応してくれる医師はいまだ充分とはいえない。ある介護施設では非常勤医師を在宅医に変えたところ、「看取り」に取り組む事例が増えたというケースがある。一般的に終末期医療を行っている診療所の医師(在宅医)であれば、在宅と同じように、施設でも急変があればすぐに対応してくれるからだ。
 すでに述べたように、特養の非常勤医師といっても中小病院の医師が兼任しているケースが多く、必ずしも終末期医療や在宅での「看取り」ケアに精通している医師ばかりではない。しかも、施設で看取るとなれば、患者が亡くなれば在宅同様に死亡診断書を書かなければならず、24時間対応が余儀なくされる。とくに、ターミナル期においては服薬・点滴の調整や処置など、看護師が医師に指示を仰ぐことになり、一定程度、適宜対応してくれる医師でなければ、施設側は「看取り」ケアができないのが実態だ。実際、勤務日数が10日以上の医師は1/4程度である(図2)。
 中小病院で勤務している医師の多くは、自分が働いている病院で患者が急変すれば直ぐに対応するであろう。しかし、協力している特養などの入所者の対応まで24時間体制でケアするとは限らない。
 その意味では、特養に勤務している多くの非常勤医師が、在宅医とある程度同様に対応してくれる医師でなければ、いくら施設側がチームワークを形成しても、数多くの看取り件数を実施することは難しい。

個室の確保


 もっとも、「年間、施設で看取るケースは数件が限界だ」という背景には、環境的(個室)側面も見逃せない。施設内のケア会議で「看取り」までケアする方針が決まり、高齢者の状態が悪化していくと個室に移ってもらうことが一般的だ。そのため、同時期に3人の「看取り」は部屋のスペースの関係で難しいという施設がある。しかも、家族が寄り添えるくらいの空間も考えなければならない。
 施設で看取る場合には天涯孤独の高齢者を除いて、できる範囲で家族に寄り添ってもらうよう施設側も要望することが多い。「緩和ケア病棟」でも同様だが、病院や施設に入院・入所したからといって家族の役割がなくなるわけではない。できる範囲で最期まで家族がケアすることが望ましい。
 そのため、多床室の多い古い特養においては、居室以外に別途、個室を確保することが難しく、「看取り」ケアを行うために確保できるのは2部屋程度で、同時に数件の終末期ケアを行うのは難しいという施設もある。その意味では、ユニット型個室や従来型個室が多い施設のほうが、特養での看取り件数を伸ばしていける可能性は高い。  特養などの介護施設で看取りケアを行うには、中心となる看護師や医師の知識・技術・意識などが重要であるが、あわせて環境整備も無視できない。
 医療や介護は「ケア」といったソフト面はいうまでもないが、「環境」といったハード面も重要な要素である。今後、医療と介護の連携が重視されていきつつも、そのための環境整備も忘れてはならない。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成26年7月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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