当機構の経営支援室は、平成22年6月3日・4日の2日間にわたって、全社協・灘尾ホールにおいて、社会福祉施設の新規開設を予定される方々等を対象に「施設開設・経営実務セミナー」を開催しました。
当セミナーは、措置から契約への移行、施設整備費に対する公費の縮小、多様なサービス提供主体の参入、人材確保・定着の困難性など福祉を取り巻く環境が大きく変化する中で、施設整備を円滑に進め、健全かつ安定した経営を行っていただく上で必要な情報を提供するものです。
全国各地から265人の参加をいただき、熱心に講師の話を聴かれ、盛況のうちにセミナーを終了することができました。
今回は、最初の講演者であった日本社会事業大学専門職大学院 藤井 賢一郎 准教授の講演内容を報告します。
藤井 賢一郎 准教授 からは「社会福祉法人経営を取り巻く現状と課題」と題して、社会福祉法人経営の課題と今後の法人経営の方向性が示されました。(以下、要旨参照のこと)
はじめに、社会福祉法人制度の成り立ちについて、社会福祉事業に対する社会的信用や事業の健全性維持の必要性と、強い公的規制の下での特別な法人とすることにより、憲法第89条に規定する公金支出禁止を回避、補助金等の公金の支出を可能とした。このため、社会福祉法人、施設の運営は規制によりガチガチに縛られ、守られていた。
現状については、2000年の介護保険制度のスタートと、それに伴う社会福祉基礎構造改革により、社会福祉法人の設立要件の緩和、介護報酬から施設整備償還など運営の弾力化、多様な事業主体の参入促進など、社会福祉法人においても経営努力が求められるようになった。
2004年には、社会保障審議会福祉部会において、評議員会、理事会の在り方、行政関与などの経営自律性の強化について意見が出された。また、2006年には、「社会福祉法人経営の現状と課題-新たな時代における福祉経営の確立に向けての基礎作業-」(社会福祉法人経営研究会)が出され、「施設管理」から「法人経営」へ、「規制」と「助成」から「自立・自律」と「責任」へとして、「規模の拡大、新たな参入と退出ルール」、「ガバナンスの確立・経営能力の向上」、「長期資金の調達」、「人材育成と確保」の4つの福祉経営の基本的方向性が示された。
続いて、2010年の地域包括ケアシステム研究会報告では、医療法人にも介護老人福祉施設の設置を認めることが提案され、少なくとも社会医療法人について設置が認められるとの見解が示された。
さらに、東京都福祉保健局の調査をもとに、社会福祉法人の理事長の年齢階級別構成を見ると、70歳以上が46%、80歳以上では12%を占めていること、また、理事長が所持している資格をみると、70%を超える人が資格のない人であることについて、高い倫理観が求められる社会福祉法人に、経営上の課題があるのではないかとの言及があった。
社会福祉法人の財務状況面からみると、特別養護老人ホーム等を経営する社会福祉法人にあっては、経営の安定性を重視して多額の現預金等を内部留保しているケースがあるが、これは公費である介護報酬をため込んでいるとの議論につながることから、社会福祉法人に求められるミッションを確認し、積極的な事業展開を行う必要がある。
まとめとして、介護需要は団塊の世代が後期高齢者となる2025年をピークに横ばいないし減少する。今まではお客様は来てくれていたが、これからは自分自身で、地域に必要な福祉ニーズ、福祉サービスはなにかを確かめることが重要であり、将来に向けて、継続的に人を育て、カネをどのように使っていくかということが、社会福祉法人の経営に求められている。社会福祉法人は、自らの存在意義、価値を高め、日本の福祉の増進のために残っていていただきたい。
なお、日本医療企画が発行する「最新医療経営Phase3」の8月号にも今回のセミナーの関連記事が掲載されますので、併せてご覧ください。
また、今後の福祉・医療経営セミナーの予定は、
http://hp.wam.go.jp/guide/keiei/seminar_information/tabid/667/Default.aspxをご覧ください。