福祉医療経営情報記事
トップ



 

◆◆ 平成23年度 ◆◆

平成23年度 福祉・医療経営セミナー報告

−「医療施設整備・機能強化セミナー」報告−【東京会場】
「地域医療提供体制を支える急性期病院の機能強化に向けた取組み」

 福祉医療機構

 当機構の経営支援室は、平成24年3月2日全社協・灘尾ホールにおいて、「地域医療提供体制を支える急性期病院の機能強化に向けた取組み」をテーマに、一般病院(特に急性期)における今回の報酬改定の動向や、経営実践事例の紹介などを通じて、今後の機能強化の方向性を探り、将来に向かっての持続可能性のある経営基盤を確立するためのご参考としていただくことを目的として、セミナーを開催しました。

 最初の講演は、国際医療福祉大学大学院 医療経営管理学科分野責任者 教授 高橋 泰 氏から「医療提供体制の再編と方向性と平成24年度診療報酬改定の概要」と題して、講演がありました。
 講演内容は、2次医療圏データベースから見えてくること、日本の介護・医療の提供レベルの現状と将来予測、その対策として、次の10のポイントを挙げられました。
 なお、医療・介護需要は、今回データベースのデータとして使用した、人口や年齢階級の推移だけで決まるものではないため、予測の精度は低いとして断りがあったうえで、それぞれ説明がありました。

【10のポイント】
 1.2次医療圏間で面積・人口・高齢化の進展等で大きな違いがある
 2.大都市部・地方都市部・過疎地域に分けると対策が立てやすい
 3.現在、介護保険施設(老健+特養)ベッド数の地域格差は小さい
 4.病院は、量・機能ともに地域間の格差が大きい
 5.年齢とともに高くなる医療費、75歳を過ぎると急増する介護費
 6.介護の需要ピークは2030年49.7%増(医療は2025年11.1%増)
 7.最重点的整備地域は東京都と周辺部、整備必要地域が全国に広がる
   (東京の施設は本当に少ないか?東京と大阪の比較)
 8.今後の医療需要は、74歳以下が減少傾向、75歳以上が急増
 9.今後重点整備すべきは75歳以上に対する医療・介護の提供体制
 10.医療基盤整備の最重点領域は、関西から東北にかけての都市部の地域密着型病床(高機能病院や過疎地域の整備より緊急性が高い)

1.「2次医療圏間で面積・人口・高齢化の進展等で大きな違いがある」ことについて
 2次医療圏の面積、人口、人口密度の比較表を示され、最大と最小の格差が面積については259倍、人口は118倍、人口密度は1212倍あるなど大きな格差が見られるとのことです。また、65歳以上人口が急激に増えるのは2015年までであり、2015年以降も高齢化が進行するのは64歳までの人口が減少するからという説明がありました。
 また、75歳以上人口は1995年から2025年の30年間にかけて15年ごとに700万人ずつ増え、2025年でその伸びは止まるとのことでした。
 講演ではさらに各2次医療圏での人口増減率などの紹介がありました。

2.「大都市部・地方都市部・過疎地域に分けると対策が立てやすい」ことについて
 日本の2次医療圏を、大都市部、地方都市部、過疎地域と3つに分けると大都市部は全国の7%の面積を占めるに過ぎないが、そこに全人口の52%が住んでいること、一方、過疎地域は面積の56%を占め、全人口の12%が住んでいるということでした。
 この3つの区分は今後の医療介護の提供体制を考える上で、有効な区分であるとして、説明がありました。

3.「現在、介護保険施設(老健+特養)ベッド数の地域格差は小さい」ことについて
 2次医療圏別にベッド数の分布を調べると、現時点では、医療に比べて介護保険施設の地域差は極めて小さいとのことでした。
 このことは、介護保険の運営はマクロ的に見れば成功した証といえるだろうとのことでした。

4.「病院は、量・機能ともに地域間の格差が大きい」ことについて
 病院に勤務する医師数は、2次医療圏で最大と最小の格差が661倍、病床数は778倍あり、1000ku当たりの医師数にいたっては、最大と最小の格差が「15559倍」という信じ難い差があるとのことでした。
 今後の医療施設の整備は、現在の「量」、「機能」の地域差を踏まえつつ、さらに将来必要となる「量」、「機能」の両面を考慮する必要があるので、介護施設の整備より複雑であるとしておりました。

5.「年齢とともに高くなる医療費、75歳を過ぎると急増する介護費」について
 医療費は外来が70歳を超えると、入院は75歳を超えると急増すること、また75歳を超えると「要介護」の比率が急激に上昇し、介護、特に施設入所の需要が高まること、一方医療は急性期型の入院より亜急性期や「生活支援型医療」や「在宅医療」などの需要が急速に高まることなどの説明があり、75歳以上の急増は医療費よりも介護費用の増加に、より大きな影響を及ぼすことがわかるとのことでした。

6.介護の需要ピークは2030年49.7%増(医療は2025年11.1%増)
 医療需要のピークは2025年、介護需要のピークは2030年であり、介護の伸びが医療の伸びより大きいという説明がありました。

7.「最重点的整備地域は東京都と周辺部、整備必要地域が全国に広がる」ことについて
 2030年に向けての75歳以上人口の急増の影響を受けて、東京およびその周辺地域は施設整備の最重点地域であり、介護は量的にみて地域格差が小さいため、介護の施設整備は、極論すれば後期高齢者の急増に対応する「量」の問題に帰結するという説明がありました。

8.「今後の医療需要は、74歳以下が減少傾向、75歳以上が急増」することについて
 医療需要を74歳以下と75歳以上に分けて分析すると、74歳以下の医療需要のピークは2015年で2020年まで微減、その後急速な減少傾向を示し、2035年には現在の▲16.8%になること、一方、75歳以上は2025年に向けて急増し、2030年まで増え続け2030年のピーク値は2010年の59.3%増となると説明がありました。

9.今後重点整備すべきは75歳以上に対する医療・介護の提供体制
 今後需要が伸びるのは75歳以上が主に使用する、「機能レベルの低下した虚弱や要介護の高齢者の生活を支える医療や介護」であるとして、在宅(施設)復帰を目指す医療の需要が高まること、高度急性期医療は必要ないが、急性期の対応を必要とする患者を受け入れる一般急性機能の需要は今後急激に上昇することが予測されるという説明がありました。
 また、今後の我が国の人口動態の推移から考えると、地域密着型病院+在宅療養支援病院の機能を併せ持つ地域密着型の生活支援型病院の整備や、かかりつけ医の往診・訪問看護の整備は、高度急性期病院の整備以上に優先順位の高い政策目標にすべきという説明がありました。

10.医療基盤整備の最重点領域は、関西から東北にかけての都市部の地域密着型病床(高機能病院や過疎地域の整備より緊急性が高い)
 今後の2次医療圏ごとの病床整備を考えるうえで、最も大切なことは、今後の人口動態を踏まえた全国共通の目標値を設定し、地域はその目標値を参照しながら、不足する場合は整備を急ぐ、過剰な場合は不足する物への転換を図る、あるいは削減するという方向性を打つ出すことであるとして、DPC病床が無い、または少ない地域は必要最小限の高機能医療の整備を検討すべき、一方過剰な地域は高機能病床の削減、地域密着型病床への転換を積極的に進めるべきであることなどを1000人に対するDPC病床数の偏差値を用いた説明がありました。
 また75歳以上1000人に対する地域密着型病床数の2010年と2030年の比較を行うと、今後急増する75歳以上人口の影響で関西から東北にかけての都市部で整備に力を入れるべきという説明がありました。

最後にまとめとして、基本方針を3点示されました。
 基本方針1.施設整備は、不足している、今後不足するサービスと地域を優先
 基本方針2.大都市部・地方都市部・過疎地域という地域特性に応じた整備
 基本方針3.国民の自立型老いと自然死の受け入れ、それらに向けた体制整備
この後、今回のダブル改定までの流れと、今回の改定についての説明がありました。

 以上のような講演の後、「急性期病院も含めた地域医療提供体制の構築に向けて」として社会医療法人加納岩 理事長 中澤 良英 氏、「地域医療提供体制の中での後方支援病院としての役割」として医療法人健康会 理事 嶋田 淳美 氏、「平成22年度病医院の経営分析参考指標から見た一般病院の経営実態」として、当機構経営支援室 経営企画課から、それぞれ講演を行いました。

 今後の福祉・医療経営セミナーの予定は、
http://hp.wam.go.jp/guide/keiei/seminar_information/tabid/667/Default.aspx
です。
    【講演内容】
    医療提供体制の再編と方向性と平成24年度診療報酬改定の概要
    <講師> 国際医療福祉大学大学院 医療経営管理学科分野責任者 教授 高橋 泰 氏

    急性期病院も含めた地域医療提供体制の構築に向けて
    <講師> 社会医療法人加納岩 理事長 中澤 良英 氏

    地域医療提供体制の中での後方支援病院としての役割
    <講師> 医療法人健康会 理事 嶋田 淳美 氏

    平成22年度病医院の経営分析参考指標から見た一般病院の経営実態
    <説明者>独立行政法人福祉医療機構 経営支援室 経営企画課