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◆◆ 平成21年度 ◆◆

公表素案から読む 社会福祉法人会計基準一元化の方向

第17回 新たな会計手法の導入 (5)固定資産の減損会計

 経営支援室 経営企画課長 千葉正展

17.新たな会計手法の導入 (5)固定資産の減損会計
公益法人会計基準に採用されている会計手法の導入

        資料:厚生労働省
        注)平成21年12月現在の状況を記載した資料であり、未確定事項も含まれる。

(ここに注目!)
先に金融商品会計の部分で触れたように、満期保有目的以外の債券等については、時価評価し、含み益・含み損のない適正な資産価額の評価をする。今回触れる固定資産の減損会計については、固定資産の時価の著しい下落を財務諸表に計上しようとするものである。ここで注意すべきは、固定資産の減損会計の場合は「著しい」「下落」の場合のみだということ。金融商品のように時価の変動について上下双方あるのではない。
一般の会計処理の慣行では、固定資産の減損会計では、「著しい」変動とは、簿価の半分以下に暴落し、回復の見込みがない場合とされるようだ。当該変動が生じた場合は対象となる資産を時価で貸借対照表に計上し、その下落分を損失として損益計算書に計上する。
しかしながら、社会福祉法人の場合、果たしてこのような下落が問題となるかどうか。逆にいえば、下落による含み損が実現する場合や減損処理後の固定資産に係る減価償却費の配分の軽減が問題となる場合がどの程度あるかという点には注意が必要だ。社会福祉法人が持つ固定資産の場合、基本的には社会福祉事業の用に供することを目的に取得されるものがほとんどだと考えられ、社会福祉施設の建物はそもそも他への転用が利かず市場価格なるものも形成されにくい。土地についても、たとえば不動産業やデベロッパーのように仕入れた土地が暴落して、不良資産化し、いずれかの段階で損失が実現するという業態とは事情が異なる。また社会福祉法人の建物はそもそも多額の補助金が入っており、土地についても補助金が出ている場合が少なくない。もし時価が問題となるのであれば、それは当該固定資産を売却した場合であり、補助金を用いて取得した固定資産を売却するということは実際問題としてあり得ない。社会福祉法人の取引の特性を踏まえた今回の一元化の議論において、はたして会計基準のコンバージェンス(収斂)という大義名分だけで、固定資産の減損会計を導入することをわざわざ明示的に規定することになるのか、今後の検討の動向を注目したい。