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経営サポート事業

「共生社会に向けた新たな社会的リソースの活用」

 

 ◆パネリスト
  一般社団法人 日本地域福祉ファンドレイジングネットワーク

  COMMNET 理事長 久津摩 和弘 氏
  NPO法人発達わんぱく会 理事長 小田 知宏 氏
 ◆コメンテーター

  NPO法人CANPANセンター 代表理事 山田 泰久 氏
 ◆コーディネーター

  独立行政法人福祉医療機構 経営サポートセンター 参事 千葉 正展

 

   地域の福祉医療の課題は多様化し、制度上の福祉のみでの解決は難しい状況の中、自ら資金を調達して取り組むファンドレイジングの手法が注目されています。

   本セミナーでは、日本地域福祉ファンドレイジングネットワークCOMMNET理事長の久津摩氏と発達わんぱく会理事長の小田氏を迎え、ファンドレイジング活用のヒントをお話いただき、CANPANセンター代表理事の山田氏にコメントをいただきました。進行は経営サポートセンター参事の千葉が担当しました。


千葉:まず、福祉におけるファンドレイジング(以下、FR)の必要性やポイントについて久津摩さまにお話いただきます。よろしくお願いします。

 

 

福祉の使命と資金調達の関係

 

久津摩:日本の福祉では、支援の実活動に重きがおかれ、活動のために必要なFRは疎かにされてきました。その結果、近年の多くの福祉団体は行政の補助金や制度報酬を財源に活動している状況です。行政財源も切迫するなかで福祉団体からは「行政のお金がつかないために必要な支援が行えない」という声を耳にします。

 しかし、本来の福祉団体の使命は、行政財源の範囲にとらわれることなく、困っている人を助け、社会課題を解決することです。そのためには、FRの実践により「行政財源」と併せて多様な「民間財源」を得ていくことが求められるのです。(以下、久津摩氏)

 

 

自由度の高い資金の必要性

 

 財源について「使途の自由度」と「資金調達効率」で整理しました。右下の「助成・補助金・委託・受託金」は、資金調達効率は良い一方で自由度が低く、左上の「会費・寄付」は、資金調達効率は悪い一方で自由度は高いといえます。

 

資金と自由度の関係図

 

 資金調達の手法を検討する際、特に重要となるのがこの「自由度の高低」です。自由度が低い財源割合が大きい場合、団体の本来目的の事業や目の前の事象に対する緊急支援への資源投入が限定的になってしまいます。

 常に自団体の信念ある事業に取り組むためには中立性の高い寄付や会費を集める必要があります。自由度の高い財源を活用し、行政財源が苦手とするニーズにも対応できる体制を整えていくことが大切です。

 

行政財源が苦手とするニーズ

 

 こうした視点を意識しながら「今持っている財源は何か」を整理すると共に、「今後どのような財源を集める必要があるか」を検討することで、制度報酬や補助金等の行政財源のみに頼る偏りのある法人経営からの脱却を目指しましょう。

 

 

FRのキーワードは「共感」

 

 FRポイントについて、「ファンの度合いをどれだけレイジング(あげていく)できるか」という言葉で語られることがあります。それは、FRの最終目的が「資金調達」ではなく、「社会課題の解決」にあるとの考え方に基づきます。

 海外で活躍するNPOのFR担当者に、FRの方法を尋ねた時、以下の回答が返ってきました。

 

「私たちは、これまで『寄付してください』とお願いしたことは一度もない。ただ、目の前の子どもたちが苦しんでいる状況を、自分たちが持つ最善の解決策と併せて説明しただけだ」

 

 つまりFRとは、社会の課題とその解決策を分かりやすく伝え、いかに共感してもらえるかが重要であり、その共感が寄付やボランティア活動という目に見える形として表れるということなのです。

 

 

FRを「サイクル」で考える

 

 寄付は、日本では一時的で不安定な財源と考えられてきましたが、海外では安定的な財源の一つとされています。この違いはまさに「サイクル」という視点の有無が関係しています。

 

 

 サイクルは、「開拓・関係構築」に始まり、「依頼や企画」をし、実際に「資源」を得ます。その後、資金提供者に対し、「感謝と報告」を行います。サイクルで特に重要な点が「感謝と報告」です。
寄付を安定財源とする海外では以下の<感謝の例>一つ一つの機会を活かし、感謝と報告を繰り返しているからこそ、継続的な寄付者増に成功しているといえます。寄付者を団体の「ファン」にすること。それは資金以外の時間の寄付(ボランティア)にもつながっていきます。

 

 

千葉:久津摩さま、ありがとうございました。 続いて、現場においてFRを実践し、経営に役立てられている小田さまにお話いただきます。  

 

 

早期療育による発達障害児・者支援

 

小田:私からは「多様な収入源の確保とプロボノ支援」と題して、実際の取組についてお話します。

 当団体は、発達障害児の早期療育の実践と普及に取り組んでいます。発達障害を持つ子どもの割合は全児童のうち6.5%。このうち幼児は、全国で30万人いると言われており、児童発達支援事業のサービス利用者は全体の1割に満たない状況です。
 私たちは発達障害の子の幼児期に介入することで、生涯にわたり幸せに生きることができる社会を実現するため、7年前から取り組んでいます。当然のことながら、私たちのNPOだけで発達障害をとりまく課題全てに取り組むことはできません。そこでロジックモデルを活用し、まずは「療育サービスの事業所を増やす事業」を進めることで社会的インパクトを目指すとの結論に至りました。(以下、小田氏)

 

ロジックモデルによる社会的インパクト図

 

 

多様な収入源の確保

 

 当団体のFRポートフォリオを整理したのが以下の表です。単位は売上%を指しています。

 中心的な事業は、全体の67%の売上を占める児童福祉法の個別給付「早期療育事業」です。事業を開始した頃は給付が100%でしたので、除々に給付以外の収入を増やしている状況です。全体の10%の売上の巡回事業は保育園等に出向き助言する事業で、区の委託金を得て実施しています。その他、助成金や補助金と自主事業を組み合わせ実施しているのが、事業所立上げのコンサルティング事業です。現状で寄付はわずかなシェアですが、今後拡大を図る準備をしています。

 

第8期の売上内訳図

 

 

プロボノ支援

 

 最後に当団体の「プロボノ支援(個人や企業の専門的な知識やスキルを活かした支援)」の取組を紹介します。事業を続けるなかで「協力したい」との申し出をくださるプロのビジネスマンとの出会いがありました。また企業から経営資源の支援を受けてもいます。グーグルやマイクロソフト等のIT企業がWeb広告やPCソフトを格安で提供いただくサービス(テックスープ)も活用しています。さまざまな個人や企業の協力を受けることで、事業を安定的に継続できるだけでなく、良き理解者も増えていくと確信しています。

 

 

日本に寄付文化はない?

 

千葉:日本には寄付文化がないと言われますが、その点についてのお考えを教えてください。

 

小田:最近、日本には寄付文化がないのではなく、「寄付を下さいとお願いする文化がない」ことに気づきました。皆寄付をしたい気持ちはあるけれど社会課題がどこにあるか、あるいは自分がどう支援したらいいのかがわからない。活動団体側が、寄付をお願いする文化が足りないと思います。

 

山田:児童福祉の父、石井十次は、岡山の孤児院で、2千人程の子どもを養うために、主要駅に募金箱と孤児院の子どもの生活の様子の写真を置き、支援の必要性を訴えた他、子どもに楽器を持たせて楽団として興行に出かけ、年間4億円程の資金を調達したと言われています。

 戦前と戦後で状況は異なるでしょうが、地域のお祭りには寄付する風習が今もあるように、視野を広げれば、日本にも確かに寄付文化があるといえそうです。

 

 

プロボノ支援受け入れのコツ

 

千葉:さまざまな企業からのプロボノ支援を受け入れるコツについて小田さまにお聞きします。

 

小田:元々、資金提供を受けていた助成機関側から、企業とのマッチング面での支援を受けたことがプロボノ支援のはじまりです。プロボノ企業に満足いただけるよう理事長の私がプロボノの窓口に立つように心がけています。なぜなら、本来支払う必要のある高い報酬の代わりとして少しでも「やりがい」を感じてもらうためです。

 

 

寄付受け入れの「効率性」を重視

 

千葉:FRの必要性は理解できました。その際FRのコストをどう考えたらよいでしょう。

 

久津摩:FRのコストは必ず発生します。寄付の受け入れの効率性を重視し、一時的な寄付からマンスリーサポーター等の定期的な寄付へ移行させていく必要があります。マンスリーサポーターはゆくゆく多額の寄付である「遺贈」の受け入れにもつながります。

 

プロボノ解説風景写真

 

 

寄付の機会の提供を

 

千葉:最後に福祉におけるFR導入のアドバイスをお願いします。

 

小田:福祉現場で制度では解決できない課題と対面しているなら、まずは周りの人たちと共に具体的に解決に向けて取り組んでみてください。お金はあとからついてくると思います。

 

久津摩:FRは担当者を決めるだけでも効果が出るという調査があります。まずは配置の検討をしてみてはいかがでしょうか。

 

山田:改めて思いを強くしたのは、福祉現場における「寄付の機会提供」の可能性です。現場に多くの人が関われる仕組みをつくり、寄付体験の機会をますます増やしていただきたいです。

 

※ 本プログラムにおける職員の見解等は個人的所見であり、独立行政法人福祉医療機構の見解ではありません。

 

 

登壇者紹介

一般社団法人 日本地域福祉ファンドレイジングネットワークCOMMNET

理事長

久津摩 和弘  氏

人物写真。久津摩氏

山口県生まれ。大学卒業後、山口県社協で権利擁護関連業務を担当後、2011年、山口県共募へ出向。
2012年、赤い羽根共同募金が全国各地で展開している寄付つき商品企画「募金百貨店プロジェクト」創設。 2016年、COMMNETを創設し、行政財源のみでの福祉課題対応の限界に関する対策として、日本の福祉へのファンドレイジングの導入や学びの環境作り等に関する活動を行う。
社会福祉におけるファンドレイジング、企業のビジネスを両立させた社会貢献、寄付つき商品等を専門としており、全国各地の福祉団体、企業等で講師やアドバイザーなども行う。 日本ファンドレイジング協会認定講師・全国福祉チャプター代表/国境なき医師団日本フィランソロピック・アドバイザー /フリーランスファンドレイザー/社会貢献アドバイザー/精神保健福祉士

NPO法人 発達わんぱく会

理事長

小田 知宏  氏

人物写真。小田氏

愛知県生まれ。東京大学経済学部卒。1997年卒業後、丸紅株式会社入社。
2000年より株式会社コムスンにて関東支社長・障害支援事業部長として障害福祉に携わる。 2008年株式会社コムスンの廃業に伴いスターティア株式会社に移り、執行役員社長室長などを歴任し上場企業の経営・マネジメントを経験。
障害福祉にかける情熱は衰えず、スターティア株式会社を退職して筑波大学および大学院にて科目等履修生として発達心理や言語聴覚などを学び、2010年に「すべての子どもが、発達障害を持って生まれても、自立したその人らしい大人になって、豊かな人生を送れる社会」をつくるための社会の実現を目指し、NPO法人発達わんぱく会を設立し理事長に就任。60人のスタッフとともに、発達障害の早期発見、早期療育に取り組んでいる(拠点:浦安市・江戸川区・中央区(東京都)、事業規模2億円)。
全国児童発達支援協議会 理事/浦安市子ども子育て会議 委員/社会福祉士/保育士

NPO法人 CANPANセンター 代表理事

日本財団CANPANプロジェクト 企画責任者

山田 泰久   氏

人物写真。山田泰久氏

群馬県高崎市出身、慶應義塾大学文学部卒(フランス文学専攻)。
1996年日本財団に入会。2014年4月、日本財団からNPO法人CANPANセンターに転籍出向。
日本財団とCANPANセンターが合同で実施する、市民、NPO、企業などの活動を支援し、連携を促進するソーシャルプロジェクト「日本財団CANPANプロジェクト」の企画責任者。
主に、NPO×情報発信、ソーシャルメディア、オンライン寄付、助成金、IT・Web、ノウハウ、ネットワーク、出身地などの文脈でセミナー開催、セミナー講師、プロジェクト、情報発信などを行っている。
一般財団法人非営利組織評価センター 業務執行理事/寄付月間推進委員会委員/社会的インパクト評価イニシアチブ共同事務局/イシス編集学校(松岡正剛氏主宰) 師範代

独立行政法人福祉医療機構

経営サポートセンター 参事

千葉 正展

人物、経営サポートセンター千葉正展

慶応義塾大学商学部卒業。
法政大学大学院人間社会研究科・現代福祉学部講師/ISO9001 品質マネジメントシステム審査員補(株)三菱総合研究所、(株)福祉会計サービスセンター(宮内会計事務所)を経て、社会福祉・医療事業団(現独立行政法人福祉医療機構)に参画。機構では経営支援室(現経営サポートセンター)経営企画課長として機構内外で多くの講演を行う。
平成26年4月リサーチグループの立ち上げに際しグループリーダーに就任、コンサルティンググループグループリーダーを経て現職。
厚生労働省「社会福祉法人の在り方等に関する検討会」構成員、「介護給付費分科会介護事業経営調査委員会」委員、「厚生労働省処遇改善に関する懇談会」委員ほか、介護・福祉分野における政策立案に関わる。著書:「新・社会福祉法人会計基準の解説」、「実践経営分析講座・財務諸表を読み解く」、「福祉サービスの組織と経営」、「福祉経営論」ほか