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経営サポート事業

「介護福祉業界での助成というツールの可能性」

 NPO法人CANPANセンター代表理事
 日本財団CANPANプロジェクト 企画責任者 山田 泰久 氏

 独立行政法人福祉医療機構 総務部 総務課 課長
 (前)NPOリソースセンターNPO支援課 課長 坪井 七夫

 

 介護福祉業界では、介護報酬や診療報酬、制度的な補助金が資金の中心です。一方で、制度の狭間となっている事業には、助成金を有効に活用していくことは今後ますます大切となります。

 本プログラムでは、CANPANセンター代表理事の山田氏に助成金活用のヒントをお話いただいた後、当機構前NPOリソースセンターNPO支援課長の坪井と、対談形式で活用のポイントを整理しました。

 

 

坪井:2つ目のテーマは「助成」についてですが、はじめに融資や補助金との違いから考えてみたいと思います。

 

 

融資、補助金と助成金との違い

 

坪井:まず融資は、条件が揃えば誰でも借りることができますが、収益を上げた中から当然返済が求められます。また、行政の補助金などは、予め設定された型の事業への実施対価の資金を指します。

 一方で、助成金は、条件が揃えば必ず借りられる融資と違い、応募段階で競争に勝ち採択される必要があります。助成金を資金としてどういう位置づけで捉えるか、また不採択となった際の備えをどこまでできるかという視点も大切です。

 また、助成金は、介護報酬や診療報酬、制度的な補助金と違って型に沿っていないチャレンジングな事業にも活用でき、テーラーメイドな活動に投入できる重要な資金ともされています。

 地域の福祉課題はますます多様化しており、制度・非制度の境界線も曖昧です。その中で、現場の福祉団体はさまざまな社会変化へ対応しなければならず、厳しい状況であると思います。そうした厳しい状況の中で、助成金は「社会のイノベーション・ツール」として、今後ますます役割を果たしていくと考えています。

 さて、ここからは助成業界に詳しい山田さまにバトンをお渡しし、「助成金活用のヒント」をお話いただきます。それではお願いします。

 

山田:CANPANセンターの山田です。それでは早速話に入っていきたいと思います。 (以下、山田氏)

 

 

「消費」と「投資」の考え方

 

 はじめに、紹介したい話題は、助成金が「投資」であるという考え方です。

 

助成金の活用図

 

 例えば、100万円の助成金を得られた団体では、1年間で助成金を「消費する」という感覚が一般的です。しかし、助成機関側は、助成金を活用した後に、いかに次の事業展開を後押ししたかや今後も同じ事業が再現可能か、あるいは他地域に活動を展開可能かという視点に立っています。

 助成金はお金を返す必要はない代わりに、活動を通して得られた成果を団体が別の形で活かしていくことが求められます。言い換えれば、成果を広く地域や他団体に普及し、福祉の推進につなげる視点や社会課題の解決(社会的成果)によってリターンする視点が大切となるのです。

 また、普段の活動の中では行えないような事業に助成金を投入するという使い方も効果的です。

 

 

NPOの資金調達で大事な「○○負担」

 

 多様な資金調達の手法を検討する際に行なっていただきたいのが、「同様の事業を行なう他団体の収入構造はどうなっているのか」、「その事業は本来誰が資金を負担すべきか」について考えておくことです。事前に他団体の収入構造の研究をしてから資金調達の方法を決定するという準備が大切です。

 

NPOの資金調達で大事な「◯◯負担」の図

 

 資金には「継続性資金」と「単発性資金」があり、助成金を含む「単発性資金」の場合には、資金の提供期間中に、終了後の収入を得る準備に取り組むことが重要です。一方、「継続性資金」には、企業や個人からの寄付・会費があります。寄付者に対し感謝と報告を伝えることで支援の継続が得られやすいと言われています。各々の資金が持っている性質に考慮した資金計画を考えることが大切です。

 

 

助成金の範囲、申請上限額の分布

 

 ここからは助成金による資金調達を具体的に考えていきます。まず助成金をエリアで大まかに分けると「地域限定」と「全国規模」の2つです。地域限定は更に「市町村域」と「都道府県域」に分かれ、助成金額の規模も異なります。

 

地域限定と全国規模の助成金の図

 

 また、申請上限額の分布を眺めると、市町村規模は50万円以下、都道府県規模は100万円以下、全国規模は200万円以上に集中分布していることがデータからわかっています。福祉分野で大きな額を扱っている助成プログラムは少なく、多額のものはWAMと日本財団とJKAの3者程です。

 

 

考慮したい、外部の資源の「付加価値」

 

 寄付による資金調達であれば、地域の市民に受け入れられた団体として信頼につながります。例えば、新規事業でパン屋を始める資金の場合なら、寄付者がそのままお客さまになる可能性を秘めています。

 一方、全国規模の助成機関が扱う助成金による資金調達であれば、箔が付き、行政や企業等も含めた幅広い信頼につながります。先ほどのパン屋の事業でいえば、助成機関に相談することで、パン屋の事業で成功している他団体の情報提供を受けられるかもしれません。資金調達の手段を検討する際には、このように「資金源が持っているネットワークやリソースを活用する視点」を持ちましょう。

 

成長にあわせた助成金の活用

 

 助成金はゆくゆく「自走」するための「助走金」であるという話をよくさせていただくのですが、その時、自団体の成長戦略に併せた計画かどうかが重要となります。

 自団体の成長に併せてどの時期に助成金を活用するか。5年~10年を見据えたビジョンを持って助成金申請を考えていくことが大切です。

 

成長にあわせた助成金の活用図

 

   これはCANPANの助成金データベースの分析などを踏まえた私見ですが、助成金の上限額によって、「対象地域」や「期待される成果」、「課題解決」に求められるレベル感が異なると考えられます。

 例えば、50万円規模の助成プログラムでは、主な対象地域を「市町村」に限定した事業は採択されますが、200~300万円規模の助成プログラムで、市町村限定の事業は積極的な採択にはつながりにくいでしょう。ただし、市町村に限定した事業でも先駆的なモデル事業であり全国展開が期待できる内容であれば、助成機関側がその後の波及効果を期待して採択するケースはあると思います。

 

助成金の金額規模から見るレベル感の図

 

 こうした観点で申請前に、助成機関側の金額の規模感と、団体の考える事業の規模感にずれが生じていないか確認するとよいと思います。

 地域限定の助成機関(市区町村、都道府県)は、地域における活動団体の増加や地域での課題解決の仕組みづくりを成果と捉えていることが多く、全国規模の助成機関は、仕組みづくりやモデル事業化、制度化等の成果を重視する傾向があります。

  助成金の出し手が事業終了後に団体に期待しているのは「成果の再現」や「活動の強化」、「課題の解消」や「仕組み化」なのです。

 

助成金の出し手の視点図

 

坪井:山田さま、ありがとうございました。会場の皆さまの関心は「どうしたら助成金を獲得できるか」だと思いますが、どの辺りがポイントでしょうか。

 

山田:申請金額を例に話せば、50万円以下なら堅実な事業計画かを確認しています。100万円程であれば、計画にプラスして先駆的事業かがポイントです。その他の視点としては、他地域に普及・展開できる事業や、チャレンジングな事業を支援したいと考えます。

 

セミナー山田氏、坪井解説風景写真

 

 また、オススメしたいのは各助成機関のHPに掲載されている助成先の実績一覧をみること。その助成プログラムの傾向がわかると思います。それらを活用して、自ら事業だけでなく、他団体の取組を把握した上で、自団体の事業計画をアピールしていただくとよいと思います。

 

 

審査員が追体験できるように

 

坪井:助成金活用のポイントをいくつかあげてみましたがこの中で助言を加えていただけますか。

 

山田:一つ挙げるなら、「客観的な視点で申請書を再チェックする」でしょうか。現場にいると、結論のみを書いてしまいがちですが、「なぜ、この問題に着目して取り組む必要があるのか」や「団体の持つ解決策が有効な理由」などを客観的に分かりやすく書くことで、審査員が追体験できるように伝えることが大切だと思います。

 

 

事業評価を活用する

 

坪井:最後に、「助成機関のサービス、支援を最大限に活用する」についてご意見をお願いします。

 

山田:「事業評価」の仕組みも一つのトレンドではないでしょうか。NPO団体は、第三者から評価される機会がまだまだ少ない。評価には、批判されるネガティブなイメージがありますが、評価を主体的に活用し、事業の改善につなげていく仕組みづくりを団体内でいかに行なうかが大切です。例えば、福祉分野を専門とするWAMであれば、事業を俯瞰してのアドバイスももらえると思います。

 

 

「福祉現場と国をつなぐ」WAM助成

 

坪井:WAM助成は、その地域のさまざまな主体が各々の得意分野や専門性を活用して取り組む事業を応援する助成です。地域の団体を巻き込みながら取り組んでいただくことで、地域力の創出を目指しています。

山田さまにお話いただいたように、特徴の一つには「事業評価」がありますが、WAM助成の事業全体の改善につなげる他、評価結果を助成先団体にフィードバックして成果や課題を客観的な視点で伝えることで今後の活動に活かしてもらうPDCAサイクルの仕組みを持っています。

重要な特徴は「福祉現場と国をつなぐ」役割を担っている点です。事業評価を経て、新たに明らかとなった課題や支援が不足する分野等、把握したことを、現場と国の中間に位置するWAMの独自の立ち位置を活かし、国に「こんな課題があります」、「こんな助成プログラムを増やす必要があります」と提案しています。国はその提案を受けて、助成テーマの見直しや予算要求に活かします。民間の助成財団にはない国への政策提言こそがWAM助成のミッションであり、私たちの存在価値だと思っています。

 

 

まとめにかえて

 

坪井:助成金は、いわゆる本業のルーチン業務や人件費の補填として対象になるものは少ないですが、さまざまな課題に対し、助成機関側も考えながら、プログラムを組み、現場と一緒に課題解決にあたっていきたいと考えています。社会課題が複雑化している近年は、既に制度上の福祉のみでは立ち行かない時代です。団体をとりまく関係機関や行政、専門職者や地域の方々と協力して取り組む必要性も増しています。今後、助成金をさらに有効活用し、社会課題の解決にお役立ていただけることを願っています。

 

※ 本対談における機構職員の見解等は個人的所見であり、独立行政法人福祉医療機構の見解ではありません。

 

 

登壇者紹介

NPO法人 CANPANセンター 代表理事

日本財団CANPANプロジェクト 企画責任者

山田 泰久   氏

人物写真。山田泰久氏

群馬県高崎市出身、慶應義塾大学文学部卒(フランス文学専攻)。
1996年日本財団に入会。2014年4月、日本財団からNPO法人CANPANセンターに転籍出向。
日本財団とCANPANセンターが合同で実施する、市民、NPO、企業などの活動を支援し、連携を促進するソーシャルプロジェクト「日本財団CANPANプロジェクト」の企画責任者。
主に、NPO×情報発信、ソーシャルメディア、オンライン寄付、助成金、IT・Web、ノウハウ、ネットワーク、出身地などの文脈でセミナー開催、セミナー講師、プロジェクト、情報発信などを行っている。
一般財団法人非営利組織評価センター 業務執行理事/寄付月間推進委員会委員/社会的インパクト評価イニシアチブ共同事務局/イシス編集学校(松岡正剛氏主宰) 師範代

独立行政法人 福祉医療機構

総務部 総務課 課長(前NPOリソースセンター NPO支援課 課長)

坪井 七夫

人物写真。総務部総務課課長、坪井七夫

 東洋大学大学院福祉社会デザイン研究科社会福祉学専攻、横浜市立大学大学院都市社会文化研究科博士後期課程満期修了。
社会福祉士/精神保健福祉士/評価学会認定評価士/准認定ファンドレイザー
福祉現場のワーカー職を経て、社会福祉・医療事業団(現独立行政法人福祉医療機構)へ。
機構ではWAM助成(NPOや社会福祉法人等が行う福祉活動に対する助成金制度)の前身の「長寿・子育て・障害者基金」事業の時代より通算15年間にわたり助成事業を担当し、本年4月より現職。福祉分野におけるボランティア・住民参加が進展する中、“制度の隙間の課題”への支援の在り方について他の助成団体との幅広いネットワークを駆使し取り組む。また、平成14年度以降、WAM助成で導入した事業評価においては、助成事業終了後の事業評価の定着・充実化に貢献。